土門 達雄 株式会社中島商事 統括料理長

北海道
目の前の海が「天然の冷蔵庫」

――ふるさとの思い出について、聞かせてください。
「北海道の最南端にある松前郡福島町で生まれ育ちました。北海道の中でも温暖な気候で、キツネやシカが生息する自然豊かな場所です。畑にはジャガイモやトウモロコシ、メロンなどが豊かに育ち、海にはイカやヒラメ、ソイ、カニやウニ、アワビなどがたくさんいました。特にウニやアワビはひざまで海に入ると目の前に山ほどあって、いくらでも獲れました。私が子供の頃はまだ冷蔵庫が普及していませんでしたが、海でいつでも新鮮な魚介が手に入るので、まさに海が天然の冷蔵庫でしたね。」

――子供の頃よく食べていた郷土料理・名物料理は?
「松前郡の郷土料理といえば、なんといっても松前漬け。かんなで削って細切りにした真昆布(まこぶ)やスルメ、ニンジン、そして丸ごとの数の子をどっさり入れて、酒と醤油だけで味付けするんです。ご飯にも酒の肴にもぴったりで、今でもよく自分で作っています。母の手作り料理で特に好きだったのは、石狩鍋や地魚の煮付け、そしてシーフードカレーです。カレーは筒切りにしたサケやマス、四つ切りにしたエゾアワビなどを豪快に入れて煮込むのですが、魚介の出汁が出てとてもおいしかったです。」

初夏から旬を迎えるバフンウニ

――ふるさとのおすすめ食材を教えてください。
「福島町の名産、エゾアワビとバフンウニです。エゾアワビは焼いても身が固くならずやわらかく、バフンウニは5月末から8月にかけて本当においしいものが獲れます。私が子供の頃によくやっていたおすすめの食べ方は、シンプルな浜焼き。海辺でたき火をして、その中に獲れたてのウニとアワビを殻ごと、どんどん放り込むんです。味付けなんてしなくても、海水の塩分だけで十分おいしいんですよ。」

――ふるさとの食に関する思い出を、教えてください。
「祖母が大の料理好きで、漬物だけでもいろいろな種類を20樽(たる)くらい作って倉庫に保管していたんです。おもしろいので私もよく祖母のお手伝いをしていました。イカを切って塩辛にしたり、ゆでて酢漬けにしたり、ニシンやサンマを粕漬けや麹漬けにしたり…。祖母のお手伝いを通じて、塩辛を作るのはイカのワタの脂が乗る11月以降だとか、四季の味のあれこれを学ぶことができましたね。」

土門 達雄 土門 達雄
自然環境を維持し、日本の豊かな食を守りたい

――ふるさとでの食体験が与えた影響は?
「子供時代に味わった獲れたての食材のおいしさや食感は、今でも舌が覚えています。おかげで、例えばウニならトゲの状態や色を見るだけで鮮度や味がわかるようになりましたし、現在のメニュー作りにも大いに役立っています。全国の旬の食材の中からおいしいものを見極めてベストな料理法を考え、よく合うソースの味をイメージして、彩りや旬を考慮して付け合わせを選択する。そういうシミュレーションが自在にできるのは、ふるさとでの食体験の蓄積があってこそだと感じています。」

――最後に、ふるさとへの応援メッセージをお願いします。
「豊かな食体験を培ってくれたふるさとへの感謝もあり、店では積極的に北海道の食材を使ったメニューを提供しています。しかし近年、沿岸工事や木の伐採の影響で、ふるさとの海のウニやアワビが激減する事態が発生しました。国が対策を講じて今ではかつての環境を取り戻しつつありますが、やはり美しい自然あってこその食材であり料理だと痛感しています。日本の食文化を守り続けるためにも、ふるさとはもとより、全国各地の自然環境と景観を維持していかなければと強く感じています」